【ネタバレあり】村上春樹著・「騎士団長殺し」を読みました。世界中が待っていた書き下ろし長編!

シェアする


約1か月前からカウントダウンされていた村上春樹さんの最新刊・「騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編」、「騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編」がついに発売されました。
今時、新刊が出る、というだけでテレビニュースで取り上げられる作家は珍しいのではないでしょうか。
ここ最近では、昨年、五木寛之さんが久しぶりに「青春の門」の新刊を出すということで、取り上げられていたくらいかと思います。
(「青春の門」は「王家の紋章」より長く続きが出続けていることで私の中で話題です)

東京の書店では夜中にカウントダウンイベントをするところもあったようで、盛り上がっていたようですが、私は普通に広島の本屋さんで買いました。
レジに本を持っていったら、すでにカバーがついた状態で2冊セットになったものが袋詰めになって用意されてました。コミケみたいだ。
そのくらい「売れる」本なのでしょうね。

※以下、ネタばれがありますのでご注意を!※

スポンサーリンク

「騎士団長殺し」あらすじ

肖像画の作成を生業としている画家である、主人公の「ぼく」(36歳)は、結婚6年目にして、妻のユズから離婚を申し立てられていた。
理由は、ユズがほかの男性と男女の仲になっており、これ以上の結婚生活は続けられないと宣言したから。
傷心の「ぼく」は、古いプジョーに乗って数か月間、北海道・東北地方を当てもない旅に出る。

旅から帰ってきた「ぼく」が住むことになったのは、小田原の狭い谷間の山の上にある家だった。
大学時代からの数少ない友人である雨田政彦が、空き家の管理を兼ねて住まないかと誘ってくれたのだ。
そこは、高名な日本画家である雨田政彦の父親・雨田具彦(ともひこ)が、創作の場として使っていた別荘だった。
雨田具彦は、著名な日本画家ではあったが、人ぎらいでほとんど隠遁生活を送るようにしてそこで創作活動を行っていた。
しかしながら現在は、90歳を越えて認知症を患い、療養施設に入院している。

一度は肖像画家を辞める決意をした「ぼく」だったが、あと1度だけと頼まれて免色(メンシキ)という男性の肖像画を描くことになる。
免色は大変な資産家であり、「ぼく」が住む谷の向こう側にある大邸宅に住んでいる人物だった。
個人情報がまったく明かされない免色だったが、肖像画を描くため何度か会ううち、徐々に「ぼく」と打ち解けていく。

ある日、「ぼく」は屋根裏に隠してある絵・「騎士団長殺し」を発見する。
それは、かつて雨田具彦が飛鳥時代をモチーフに、今まさに騎士団長が殺されようとする場面を描いた、強力な磁力のある絵だった。
「ぼく」はその絵に強烈に惹かれるようになる。
その絵は、まるで檻から出たがっている鳥のような、強い衝動が塗りこめられていた。

そのころ、「ぼく」は毎夜、決まった時間に鈴の音が聞こえることに気づく。
鈴の音は「ぼく」の住む家の敷地内にある祠の裏手にある石積みの下から聞こえてくる。
免色にその話をすると、免色は手立てを講じて石積みをとりさってくれた。
石積みの下には、石室があり、真っ暗な穴が広がっていた。
その中にある鈴が、音の正体のようだった。

その穴を開いた後、「ぼく」の前には「騎士団長殺し」の絵の中にいる騎士団長の形をした、身長60センチほどの小人・「騎士団長」が現れるようになる。
騎士団長は自らを「イデア」であるとして、寓意に満ちた示唆を「ぼく」にするようになる。

免色の肖像画の完成祝いに、「ぼく」は免色の邸宅へ招かれる。
丁重なもてなしを受けたのち、免色は「ぼく」に告白と頼みごとをする。
免色の屋敷の谷を挟んで向かいの家に住む少女・秋川まりえが、免色の娘かもしれないこと。
その娘を見つめていたくて、その家を手に入れたこと。
「ぼく」にまりえの肖像画を描いてほしいこと。
そして、肖像画を描く際に、偶然を装って同席させてほしいこと。

若干の逡巡のあと、「ぼく」はその依頼を引き受ける。
まりえは「ぼく」が教える絵画教室に通っている生徒の一人だった。

まりえの肖像画を描くかたわら、「ぼく」は並行してもう2枚の絵を描く。
1枚は、穴の写実的な絵。
もう1枚は、傷心の東北旅行中に出会った「白いスバル・フォレスターの男」という、悪いオーラをまとう絵だった。

ある日、まりえが帰ってこないという事件が起きる。
「ぼく」はなんとかしてまりえを見つけ出したいと願い、騎士団長にアドバイスを求める。
騎士団長のアドバイスに従って、「ぼく」は雨田具彦に会いに行く。
痴呆が進んで、ほとんど無反応な雨田具彦だったが、「騎士団長殺し」というワードを機に、眼の光を取り戻していく。

雨田具彦と「ぼく」だけがいる病室に、騎士団長が現れる。
騎士団長は、まりえを取り戻したくば、自分を殺せと「ぼく」にいう。
雨田具彦の前で、「騎士団長殺し」を再現しろ、と。

「騎士団長殺し」の絵は、青年時代の雨田具彦が、ウィーンに留学中あったある事件と、雨田具彦の弟・継彦が徹底的に心を壊されたある事件への想いが塗り込められた絵だった。
雨田具彦は、アンシュルス(ナチス・ドイツによるオーストリア併合)当時、ナチスに抵抗する組織に属しており、要人を暗殺する計画に関わっていた。
結局それは未遂に終わり、関係者(雨田具彦の仲間と恋人)はみな強制収容所へ送られ、命を落とす。
雨田具彦だた一人が、何も口外しないことを条件に無傷で日本へ返された。

そして雨田具彦が庇護していた弟・継彦は、手違いで南京入城(南京大虐殺)の場へ軍人として送り込まれ、そこで捕虜の首を斬らされた。
雨田継彦は、おとなしい性格で将来を嘱望されたピアニストであり、暴力的場面とは対極に位置する人物だった。
南京をはじめとする軍隊での出来事で、心を破壊された雨田継彦は、故郷へ戻った後自死を遂げていた。

そんなできごとを寓意に満ちたモチーフで描いたのが「騎士団長殺し」だったのだ。

迷った挙句、「ぼく」が絵の通りに騎士団長の胸に包丁を突き立てると、「顔なが」が出現する。
「顔なが」もまた、「騎士団長殺し」の絵の中に登場するキャラクターであり、小人の騎士団長がいうには、まりえの手がかりを知っているという。

「顔なが」が出現した入り口に無理やり入り込み、「ぼく」は真っ黒な洞窟をくぐりぬける。
そこは、現実世界とは違う理で動く地下世界だ。
閉所恐怖症の「ぼく」は、途中くじけそうになるものの、雨田具彦が失った恋人(と思われる)ドンナ・アンナや死んだ妹のコミに導かれて、なんとか現実に生還する。
たどり着いた先は、あの石積みのあった穴だった。

時を同じくして、まりえも家に戻っていた。
まりえは、免色の家に忍び込み、出られなくなっていたという。
そしてその間に、小人の騎士団長と出会い、母親(とまりえは知らないが)の衣服が悪しき何者かからまりえを守ってくれたのだと「ぼく」に伝える。

その後、「ぼく」はユズとやり直すことになり、結婚生活は第2期に入っていくことになった。
ユズは妊娠しており、それが「ぼく」の子どもか浮気相手の子どもかは分からなかったが、それは「ぼく」にとって大きな問題ではなかった。
ユズが妊娠したその時期に、「ぼく」は夢の中でユズを妊娠させたという実感があった。
生まれた女の子は「室(むろ)」と名付けられた。

数年後、「ぼく」が暮らしていた小田原の家(雨田具彦の家)が火事によって焼け落ちる。
「騎士団長殺し」と「白いスバル・フォレスターの男」とともに。
どちらも、強い力をもった、何かを呼び寄せかねない「危険な絵」だった。

「ぼく」は考える。
騎士団長も、顔ながも、暗闇の中で導いてくれたドンナ・アンナも本当にいたのだ、と。
そして、彼らからの恩寵のかたちとして、むろがいるのだと。

 

あらすじとは言っても、とても込み入っていて、また(村上春樹的な)超常的な部分があるので、説明するのはどうにも難しい・・・。
私が書くとなにがなんやらわかりませんが、本書はもちろんきちんと順序立てて混乱なく読み進めていけるので、どうぞご心配なく。

これまでの作品とすこしちがうな、と思うのは、ラストがちゃんと提示されていることだと思います。
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年では、ラスト、木元沙羅から結局どんな返事をもらったかが不明ですし、アフターダークでも、お姉さんが目を覚ましたのかまでは提示されませんでした。
ですが、「騎士団長殺し」では、物語の数年後が示されています。
一連のできごとはすでに過去のものになっており、消化済みのものごととになっています。
そして、娘(未来)に語りかける形で、穏やかに結ばれています。
読者としてはスッキリしてありがたいことです。

これまでの作品を読んでいたら「お?」と思える部分満載!

地底世界や穴のモチーフは、「ねじまき鳥クロニクル」の井戸や「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」のやみくろを思い出させますし、夢やほかのだれかを通しての受胎は、「1Q84」を、騎士団長や顔ながは「1Q84」のリトル・ピープルや「海辺のカフカ」の猫を思い出させます。
こういったモチーフに、村上春樹さんは宿命的に惹かれているのかもしれませんね。

つらつらと感想、箇条書きで

●「1Q84」のふかえりの件があったので、まりえと関係を持つのでは・・・と途中ちょっとハラハラしてしまいました。
さすがになくてよかった。
そんなことがあった日にゃ、免色さんに顔向けできないものね。

●村上春樹さんの作品の常としてもう気にならなくなってきましたが、みんな貞操観念が緩すぎませんかね・・・?
一般人というか、常識人が雨田具彦の息子で「ぼく」の友人・雨田政彦とまりえの叔母さんの秋川笙子さんくらいしかいない気が。

●私は途中から小人の騎士団長がとってもキュートだな~と思っていたので、殺されないといけなかったときはとっても悲しかったです。
タイトルからして、仕方ないことなのかもしれませんが・・・。
嗚呼、騎士団長。R.I.P。

●免色さん、お金持ちすぎィ!!
大豪邸を無理やり買って、石持ち上げるのに業者さんと重機を手配して、料理人とバーテンダーを個人的な夕飯のために呼び寄せるとか・・・。
家の中の描写も、これでもかというほどのお金持ちっぷりを見せつけてくれます。
まりえちゃん、どっちのお父さんも大金持ちとかエライことですわ。

●雨田具彦さんに、もうちょっといろいろ語ってほしかった。
「語らない(語れない)」というのが、彼の役割だから仕方ないのだろうけれど・・・。
そういえば彼は、「1Q84」の川奈天吾のお父さんと同じような感じですね。
病院で眠っている、キーになるキャラクター。

●雨田家の暗い秘密と「騎士団長殺し」の絵。
おそらく、読み手のだれもが頭の中に「騎士団長殺し」の絵を描いていると思います。
自分が想像している絵でよいのかどうか・・・機会があれば、デッサンやラフだけでもいいから見てみたいですね。
見えないからこそ、という部分はおいておいて・・・。答え合わせ的に。

●普段クールな免色さんが、偶然まりえと会えることになったとき、テンパって急にジャガーのタイヤ空気圧をはかろうとしちゃうのかわいい。

●「ぼく」の妹・小径(コミ)について。
雨田具彦と「ぼく」の大きな共通点の1つが、互いに庇護する対象であった弟・妹を亡くしていること。
(雨田具彦はそれ以外にも、最愛の女性をなかば見捨てて、自分だけ助かったという強烈な体験もありますが)
理不尽に自分の一部をむしりとられたこととその喪失の穴埋めが、絵のヒントになっている気がします。

●「ぼく」の妻・ユズと、色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年の白根柚木(あるいはユズ・ハアタイネン)はなにか関係があるのかな?共通項が、あるといえばある。ないといえばない。
たぶん関係ないんだろうな。

●最後の最後まで、ほんの数か月~1年くらい前について語っていると思って読んでました・・・。

読了したて、ということもあって、感想を書くのが難しい本ではありますが、ぐいぐい引き込まれることは請け合いです。
話題の本、話題の作家、ということを差し引いても、楽しめると思います。
 

【ネタバレあり】村上春樹著・「騎士団長殺し」登場人物・キーワードまとめ
先日、「騎士団長殺し」の読みたてほやほやの感想を書きました。 合わせて、備忘録とファースト・インプレッション的な感想を交えつつ、人物につい...

シェアする

フォローする

おすすめ記事
おすすめ記事
スポンサーリンク